広島高等裁判所 昭和59年(行コ)2号 判決 1988年3月30日
広島市中区千田町1丁目4番15号
控訴人
中道秋夫
右訴訟代理人弁護士
椢原隆一
広島市中区加古町9番1号
被控訴人
広島西税務署長 下江正敏
東京都千代田区霞ケ関3丁目1番1号
被控訴人
国税不服審判所長 小酒禮
被控訴人ら指定代理人
宮越健次
外1名
被控訴人広島西税務署長指定代理人
山口幸三
外1名
被控訴人国税不服審判所長指定代理人
河村龍三
外2名
主文
本件控訴中,被訴人国税不服審判所長に関する部分を棄却する。
原判決中,被控訴人広島西税務署長に関する部分を次のとおり変更する。
本件訴えのうち,被控訴人広島西税務署長が控訴人の昭和47年分所得税についてした昭和50年11月11日付更正及び過少申告加算税の賦課決定中,所得金額23,928,421円,納付すべき税額金3,468,000円,過少申告加算税金118,800円を超える部分並びに昭和53年4月12日付更正及び過少申告加算税の変更決定の取消を求める部分をいずれも却下する。
被控訴人広島西税務署長が控訴人の昭和47年分所得税についてした昭和50年11月11日付更正及び過少申告加算税の賦課決定(但し,昭和53年4月12日付更正及び過少申告加算税の変更決定による減額後のもの)中,所得金額計金15,043,629円,納付すべき税額金2,409,900円,過少申告加算税金65,900円を超える部分を取り消す。
控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は,控訴人と被控訴人広島西税務署長との関係では,原審及び当審とも,控訴人に生じた費用の2分の1と被控訴人広島西税務署長に生じた費用を2分し,その1を控訴人の,その余を被控訴人広島西税務署長の各負担とし,控訴人と被控訴人国税不服審判所長との関係では,当審において控訴人に生じたその余の費用と被控訴人国税不服審判所長に生じた費用を控訴人の負担とする。
事実
第一申立
一 控訴人
原判決を取り消す。被控訴人広島西税務署長が控訴人の昭和47年分所得税についてした昭和50年11月11日付更正及び過少申告加算税の賦課決定並びに昭和53年4月12日付更正及び過少申告加算税の変更決定をいずれも取り消す。
被控訴人国税不服審判所長が昭和50年1月30日付でした控訴人の昭和47年分所得税について可部税務署長によってされた昭和48年11月12日付更正及び過少申告加算税の賦課決定に対する控訴人の審査請求を棄却する旨の裁決並びに昭和51年8月31日付でした控訴人の昭和47年分所得税について広島西税務署長によってされた昭和50年11月11日付更正及び過少申告加算税の賦課決定に対する控訴人の審査請求を棄却する旨の裁決をいずれも取り消す。
訴訟費用は原審及び当審とも被控訴人らの負担とする。
二 被控訴人ら
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
第二主張
一 請求原因
1 確定申告
控訴人は,可部税務署長に対し,昭和48年3月15日付で,昭和47年分の所得及び税額等について,別表A欄のとおり確定申告(以下「本件確定申告」という)をした。
2 更正及び決定
(一) 昭和48年11月12日付更正及び決定
可部税務署長は,昭和48年11月12日付で,控訴人の昭和47年分の所得及び税額等について,別表B欄のとおり更正(以下「本件B更正」という)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件B決定」という)をした。
(二) 昭和49年7月3日付再更正及び決定
可部税務署長は,昭和49年7月3日付で,控訴人による更正の請求に基づいて,控訴人の昭和47年分の所得及び税額について,別表C欄のとおり更正及び過少申告加算税の賦課決定をした。
(三) 昭和50年11月11日付再々更正及び決定
被控訴人広島西税務署長は,昭和50年11月11日付で,控訴人の昭和47年分の所得及び税額等について,別表D欄のとおり更正(以下「本件D更正」という)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件D決定」という)をした。
(四) 昭和53年4月12日付再々々更正及び決定
被控訴人広島西税務署長は,昭和53年4月12日付で,控訴人の昭和47年分の所得及び税額等について,別表E欄のとおり更正(以下「本件E更正」という)及び過少申告加算税の賦課決定(以下「本件E決定」という)をした。
3 裁決
(一) 昭和50年1月30日付裁決
可部税務署長は,昭和49年7月2日付で,本件B更正及び決定に対する控訴人の異議申立について,これを棄却する旨の決定をした。
被控訴人国税不服審判所長は,昭和50年1月30日付で,本件B更正及び決定に対する控訴人の審査請求について,これを棄却する旨の裁決(以下「本件一裁決」という)をした。
(二) 昭和51年8月31日付裁決
被控訴人広島西税務署長は,昭和51年2月17日付で,本件D更正及び決定に対する控訴人の異議申立について,これを棄却する旨の決定をした。
被控訴人国税不服審判所長は,昭和51年8月31日付で,本件D更正及び決定に対する控訴人の審査請求について,これを棄却する旨の裁決(以下「本件二裁決」という)をした。
4 違法事由
(一) 本件D更正及び決定並びにE更正及び決定
(1) 所得の過大認定
本件D更正及び決定並びにE更正及び決定は,控訴人の不動産の譲渡所得について,租税特別措置法(昭和48年法律第16号による改正前のもの,以下「措置法」という)37条1項の解釈適用を誤るなどして,控訴人の所得を過大に認定したから,違法である。
(2) 前更正との矛盾
本件D更正及び決定は,控訴人の不動産の譲渡所得について措置法37条1項を適用せず,同条項を一部適用した本件B更正及び決定と矛盾するから違法である。
(3) 一事不再理及び不利益変更禁止の各違反
本件D更正及び決定は前記3(一)の可部税務署長による異議棄却決定の後,新たな事実関係が生じたわけでもないのに,右決定を実質的に変更したから,一事不再理の原則に反し,また,国税通則法83条3項但し書の不利益変更禁止の原則にも反し,違法である。
(4) 更正権の濫用及び信義則違反
本件D更正及び決定は,控訴人が本件B更正及び決定の取消を求めて提起した別訴の係属中,もっぱら課税庁の敗訴を避けるため意図的になされた。これは,被控訴人広島西税務署長による更正権の濫用に当たり,また,信義則にも違反するから,本件D更正及び決定は違法である。
(5) 内容の矛盾
本件D更正及び決定は,分離長期譲渡所得金額の算定には措置法37条1項の適用を否定しながら,不動産所得金額の算定の前提となる減価償却費の算出には同条項の適用を前提とし,内容において前後矛盾するから,違法である。
(6) 期間制限の違反
本件E更正及び決定は,昭和47年分所得税の法定申告期限である昭和48年3月15日から5年以上を経過した後にされたから,減額更正決定の除斥期間を定めた国税通則法70条2項1号に反し,違法である。
(7) 所轄外
本件D更正及び決定は,控訴人が所轄可部税務署長に対して本件確定申告をするなどして,両者間に特別の公法関係が成立していたのに,被控訴人広島西税務署長が控訴人のその所轄地内への転居を理由に,成立済みの右公法関係に権限なく介入してなしたものであるから,違法無効である。
(二) 本件一,二各裁決
本件一,二各裁決は,違法な本件B更正及び決定,本件D更正及び決定を正当とするから,いずれも違法であるほか,本件一裁決が,控訴人の不動産の譲渡所得について措置法37条1項の適用を認めた本件B更正及び決定を正当としたのに,本件二裁決が同条項の適用を否定した本件D更正及び決定を正当としたのは,明らかな矛盾であるから,ともに存立することは許されず,いずれも違法であるか,少なくとも,いずれかが違法である。
5 結論
よつて,控訴人は,被控訴人広島西税務署長の本件D更正及び決定,本件E更正及び決定の取消並びに被控訴人国税不服審判所長の本件一,二各裁決の取消を求める。
二 被控訴人広島西税務署長の本案前の答弁及び請求原因に対する認否
(本案前の答弁)
本件E更正及び決定は,本件D更正及び決定の一部を取り消すいわゆる減額再更正及び決定であるから,右E更正及び決定によって減額された右D更正及び決定のうち所得金額計金23,928,421円,納付すべき税額金3,468,000円,過少申告加算税額金118,800円を超える部分について,その取消を求める訴えの利益はない。さらに,本件E更正及び決定は,本件D更正及び決定を控訴人に有利に変更したものであるから,控訴人にその取消を求める訴えの利益はない。従って,本件D更正及び決定のうちの前記部分及び本件E更正及び決定の取消を求める訴えは,これを却下すべきである。
なお,本件E更正及び決定は,昭和47年分所得税の法定申告期限である昭和48年3月15日から5年以上を経過した後になされたが,更正及び決定の期限を定めた国税通則法70条2項1号は,本訴のように課税処分について被処分者が取消訴訟を提起して争っている場合には適用がないと解されるから,減額再更正である右E更正及び決定は適法である。
(請求原因に対する認否)
1 確定申告
請求原因1は認める。
2 更正及び決定
請求原因2は認める。
3 違法事由
(一) 本件D更正及び決定並びにE更正及び決定
(1) 所得の過大認定
請求原因4(一)(1)は争う。
(2) 前更正との矛盾
請求原因4(一)(2)は争う。
本件D更正及び決定は本件B更正及び決定に対する増額再更正であるところ,増額再更正は課税処分のやり直しであり,当初更正及び決定は再更正及び決定に吸収され,独立の処分としては存在を失うことになるから,右D更正及び決定によって右B更正及び決定は消滅し,両更正及び併存することはなく,したがって矛盾もない。
(3) 一時不再理及び不利益変更禁止の各違反
請求原因4(一)(3)は争う。
税務署長が更正をした後も,課税標準又は税額が過少であることを知ったときは,その調査したところに基づいて更に更正をすべきであることは,国税通則法26条に明定され,これをしないことはかえって違法の誹りを免れず,このことは,当初更正及び決定に対する異議決定の前後を問わない。再更正及び決定が当初更正及び決定に対する異議決定後になされたとしても,異議決定を変更するものではなく,一事不再理の原則違反の問題は生じない。また,国税通則法83条3項但し書は,異議決定に対する制限であり,再更正に対する制約とはならない。
(4) 更正権の濫用及び信義則違反
請求原因4(一)(4)は争う。
前記国税通則法26条の規定がある以上,税務署長が,課税処分の取消訴訟係属中に更正をしたからといって,更正権の濫用や信義則違反となることはない。
(5) 内容の矛盾
請求原因4(一)(5)のうち,本件D更正及び決定が,分離長期譲渡所得金額の算定には措置37条1項の適用を否定し,不動産所得金額の算定の前提となる減価償却費の算出には同条項の適用を前提としていたことは認め,その余は争う。
本件E更正及び決定は,不動産所得金額算定上の減価償却費を,措置法37条1項の適用がないことを前提に算出したから,既に控訴人主張の矛盾は存しない。
(6) 期間制限の違反
請求原因4(一)(6)のうち,本件E更正及び決定が,昭和47年分所得税の法定申告期限である昭和48年3月15日から5年以上を経過した後にされたことは認めるが,その余は争う。
(7) 所轄外
請求原因4(一)(7)は争う。
被控訴人広島西税務署長は,本件D更正及び決定当時,控訴人の住所地を所轄しており,右更正及び決定になんらの違法もない。
三 被控訴人国税不服審判所長の請求原因に対する認否
1 確定申告
被控訴人広島西税務署長の請求原因に対する認否1と同様
2 更正及び決定
被控訴人広島西税務署長の請求原因に対する認否2と同様
3 裁決
請求原因3は認める。
4 違法事由
(一) 本件D更正及び決定並びにE更正及び決定
被控訴人広島西税務署長の請求原因に対する認否3(一)と同様
(二) 本件一,二各裁決
請求原因4(二)は争う。
控訴人は,本件B更正及び決定,本件D更正及び決定の違法を理由として,本件一,二各裁決の取消を請求しているが,この請求は,明らかに行政事件訴訟法10条2項に反し,許されない。
本件一,二各裁決は,判断内容において相矛盾対立しない。
本件一裁決の後,その審査の対象となった本件B更正及び決定を増額再更正する内容の本件D更正及び決定がされたから,右裁決は,右B更正及び決定と同様に意義を失い,本件二裁決と併存も矛盾もしない。
四 被控訴人らの抗弁
1 経緯
控訴人は,昭和37年12月,広島市千田町1丁目4番14宅地106.94m2及び同番15宅地120.43m2(以下「本件土地」という)及び右土地上の建物一棟(以下「本件旧建物」という)を譲受けて(右土地部分代金6,850,000円)所有し,右土地建物の2分1を自己の住居として使用し,その余を貸事務所として賃貸していたが,その後,右建物を取り壊し,その跡地にビルを建築所有することを計画し,昭和46年8月3日右ビル建築に着手し,総額金77,000,000円を費やして,昭和47年5月1日右土地上に鉄骨造陸屋根9階建ビル(床面積1階ないし3階各183.75m2,4階ないし7階各155.40m2,8階139.36m2,9階22.50m2,以下「本件ビル」という)を完成所有した。
控訴人は,本件ビルの8階の半分を自己の住居として使用し,同階の他の半分,2,3階を貸事務所として,1階を貸ガレージとして,昭和47年7月1日以降それぞれ他に賃貸し,4階ないし7階(各階に専有部分の面積56.28m2及び64.52m2の居宅が各一戸存在する)については,本件土地の共有持分権とともにいわゆる土地付分譲マンションとして売り出し,昭和47年中に7階の専有部分の面積56.28m2の一戸を除くその余の七戸(以下「本件ビル譲渡部分」という)を,本件土地共有持分権合計22,737分の7,198(以下「本件土地持分」という)とともに,代金合計金55,400,000円(うち右ビル譲渡部分代金32,563,200円,右土地持分代金22,836,800円)で他に譲渡した。
なお,控訴人は,本件ビルの建築費用等のうち,右ガレージ及び事務所としての賃貸部分(以下「本件ビル賃貸部分」という)の取得のため金35,078,597円を,右ビル譲渡部分の取得のため金32,269,927円を,それぞれ費やし,さらに,右譲渡のため金400,000円を費した。
2 説明
(一) 措置法35条1項
本件土地持分の譲渡について措置法35条1項の適用はない。
措置法35条1項は,個人がその居住の用に供している家屋とともにその敷地の用に供されている土地を譲渡した場合に適用されるところ,前記1のとおり,控訴人は,その居住の用に供していた本件旧建物を撤去して,本件土地をいったん更地とした後に本件ビルを建築し,右ビル譲渡部分とともに右土地持分を他に譲渡したから,右土地持分の譲渡について,明らかに措置法35条1項の適用はない。
(二) 措置法37条1項
本件土地持分の譲渡について措置法37条1項の適用はない。
固定資産である土地の上に建物を建築してその土地及び建物を譲渡した場合,固定資産であった土地は,譲渡されたときに販売用資産に転化したものと解され,当該譲渡による所得は,たな卸資産又は雑所得の基因となるたな卸資産に準ずる資産すなわちいわゆる準たな卸資産の譲渡による所得として,その全部が事業所得又は雑所得に該当する(所得税基本通達33-4)。
控訴人は,前記1のとおり,本件土地上にあった本件旧建物を撤去し,右土地をいったん更地とした後に,一部販売目的をもって本件ビルを建築し,右土地持分を右ビル譲渡部分とともに他に譲渡したが,右土地持分は,その譲渡の時点では,既にに右ビル譲渡部分に付して販売される販売用資産に化しておるところ,その譲渡は,社会通念上事業というほどの継続性反復性を有しないから,右譲渡による所得は,準たな卸資産の譲渡による雑所得に該当する。
ところで,特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例について,措置法37条1項では,「所得税法2条1項16号に規定するたな卸資産その他これに準ずる資産で政令に定めるもの(措置法施行令25条1項によれば「雑所得の基因となる土地及び土地の上に存する権利」とされる)」を,その適用の対象となる資産から除外しているから,雑所得の基因となる準たな卸資産である本件土地持分の譲渡について,措置法37条1項の適用はない。
なお,昭和57年6月改正の措置法通達37-18によれば,税務取扱上,事業の用に供されていた土地に区画形質の変更等を加えてすみやかに譲渡した場合には,当該土地の譲渡による所得のうち譲渡所得とされる部分について措置法37条1項の適用を認めることとされたが,右通達は,従前の「事業の用に供しているもの」に該当するか否かに関する課税庁の認定指針を緩和する趣旨で,「今後処理するものから適用する」として新設されたものであり,右緩和によって,従前の取扱指針に基づいてなされた本件D更正及び決定並びに本件E更正及び決定が当然に違法となるものではない。
(三) 分離長期譲渡所得の課税の特例
本件土地持分の譲渡による所得について,これを譲渡所得として課税することも差し支えない。
前記(二)のとおり,固定資産である土地に建物を建設して譲渡した場合の所得は,たな卸資産又は準たな卸資産の譲渡による所得として,その全部が事業所得又は雑所得に該当するが,右所得の中には,たな卸資産又は準たな卸資産の販売による利益のほかに,土地がたな卸資産又は準たな卸資産に転化する以前すなわち固定資産であった間に発生し累積した値上がり益が含まれ,右値上がり益に相当する所得部分は,譲渡所得として課税するのが相当と解しうる余地があるから,長期間保有していた土地に建物を建設して譲渡した場合の譲渡による所得のうち,建物の建設後の値上がり益及び加工利益に相当する部分は事業所得又は雑所得とし,その余の部分は譲渡所得として課税することも差し支えないものといえる(所得税基本通達33-5)。
前記1のとおり,本件ビル建築工事着工の時点から本件土地持分の譲渡の時点までにはさほどの期間経過はなく,両時点の右土地持分の価額にもさしたる変動はなかったと推測されるから,右土地持分の譲渡による所得を,準たな卸資産に転化する前の固定資産としての累積値上がり益と,転化した後の販売による利益の部分とに区分しても,右販売利益部分は少額であり,その算出は困難と推定される。従って,税務算定上,控訴人に有利な取扱として,右譲渡による所得全部を譲渡所得として課税したとしても,不当とはいえない。
なお,このように,雑所得部分を含むべき所得を,控訴人に有利に,全部譲渡所得として課税したからといって,本件土地持分の譲渡について,本来適用すべきでない措置法37条1項を適用しなければならなくなるものではない。
また,譲渡所得は,原則として総所得金額に算入されるが,右譲渡持分の譲渡は,措置法31条1項の長期譲渡所得の課税の特例の要件に該当するから,右譲渡による所得については,総所得金額と分離して課税すべきである。
3 所得金額
(一) 不動産所得 金1,955,799円
控訴人は,本件確定申告において,別表A「不動産所得」欄のとおり不動産所得を金2,140,650円として申告したが,更正の請求の際には,本件ビル賃貸部分の昭和47年分の減価償却費を金144,738円と改め,これを前提に右不動産所得を金2,079,412円と算出し直して申告した。
しかし,右減価償却費は,正確には,次のとおり金268,351円である。
すなわち,いわゆる定額法により,右賃貸部分の取得価額金35,078,597円から,その残存価額(取得価額の一割)金3,507,860円を控除した金額に,その耐用年数60年に対応する償却率0.017を乗じ,これを年間月数12で除し,昭和47年中賃貸の用に供した同年7月1日から同年12月末日までの月数6を乗じて得た金268,351円である。
従って,控訴人の昭和47年分の不動産所得金額は,前記更正の請求における申告額金2,079,412円に,その前提となった減価償却費金144,738円を加算した金額から,正確な減価償却費金268,351円を控除して得た金1,955,799円である。
(二) 給与所得 金1,956,500円
控訴人は,本件確定申告において,別表A「給与所得」欄のとおり,給与所得を金1,956,500円と申告した。
(三) 雑所得 金1,718,148円
控訴人は,本件確定申告において,別表A「雑所得」欄のとおり,雑所得を金1,824,875円と申告したが,控訴人には,本件ビル譲渡部分代金3,253,200円の収入から,右取得費用金32,229,927円及び譲渡費用金400,000円の合計金32,269,927円を必要経費として控除した雑所得損失金106,727円が存する。
従って,控訴人の昭和47年分の雑所得金額は,右雑所得申告額金1,824,875円から,右損失金106,727円を控除した金1,718,148円である。
(四) 総所得 金5,630,447円
前記(一)ないし(三)の合計金額
(五) 分離長期譲渡所得 金19,668,090円
控訴人には,本件土地持分の譲渡代金22,836,800円の収入から,右土地取得価額金6,850,000円のうち右土地持分割合に対応する金2,168,710円及び特別控除額金1,000,000円を控除して得た分離長期譲渡所得金19,668,090円が存する。
(六) 所得金額計 金25,298,537円
前記(四)及び(五)の合計金額
4 税額
前記3(四)の総所得金額及び同(五)の分離長期譲渡所得金額は,いずれも本件E更正における総所得金額(別表E「総所得」欄のとおり)及び分離長期譲渡所得金額(同表E「分離長期譲渡所得」欄のとおり)を上回り,前記3(六)(前記3(四)及び(五)の合計)に基づく所得税額は,別表F「申告納税額」欄のとおり金3,955,800円となり,納付すべき税額は,同表F「納付すべき税額」欄のとおり金3,930,000円となり,その過少申告加算税額は,同表F「加算税の額」欄のとおり金141,900円となる。
従って,右各税額の範囲内でされた本件D更正及び決定(本件E更正及び決定による減額後のもの)は適法である。
五 抗弁に対する認否
1 経緯
抗弁1のうち,本件ビルの床面積,右ビル譲渡部分の各階の面積,控訴人が本件ビル譲渡部分を土地付分譲マンションとして本件土地持分とともに他に譲渡したこと,以上の各点はいずれも争い,その余は認める。
控訴人は,右ビルの建築資金を調達するため,右土地持分及び本件旧建物を代金合計22,836,800円で他に譲渡し,右ビル完成後,右代金を右ビル賃貸部分の取得費用金35,078,597円の一部に当て,右ビル譲渡部分を他に譲渡した。
2 説明
抗弁2は争う。
(一) 措置法35条1項
前記のとおり,控訴人は,居住の用に供していた本件旧建物とともにその敷地に供されていた本件土地持分を他に譲渡したものであるから,右譲渡は措置法35条1項に規定する居住用財産の譲渡に該当し,固定資産である土地に建物を建設して譲渡したものではないから,右土地持分の譲渡については,措置法35条1項が適用されるべきである。
(二) 措置法37条1項
本件土地持分の譲渡について措置法37条1項が適用されるべきである。
前記1のとおり,控訴人は,まず右土地持分を他に譲渡して,右ビルを建設し,その後,右ビル譲渡部分を他に譲渡したものであり,固定資産である土地に建物を建設して譲渡した場合には当たらない。
本件土地は,控訴人が,昭和37年12月取得し,自己の居住部分及び貸事務所からなる本件旧建物の敷地として,その2分の1を右事務所の賃貸事業に供していたが,右土地の約31.7%を占めるにすぎない本件土地持分は,すべて右賃貸事業に供していた部分2分の1にふりあてることができるから,右土地持分の全部が事業用資産であったということができる。また,本件ビルは,完成後,控訴人の居住用である8階部分の2分の1を除いて,その総面積の90%以上に当たるその余の部分を賃貸及び分譲の事業の用に供し,その敷地である右土地の用途も同様であったから,措置法通達37-4但書によっても,右土地持分は,全部事業用資産とみるべきである。従って,右土地持分は,事業用資産として,措置法37条1項の表12号の上欄に掲げるものに該当する。
控訴人は,本件土地持分を譲渡した日の属する昭和47年中に,買換え資産である本件ビル賃貸部分を取得し,貸ガレージ及び貸事務所として事業の用に供した。また,控訴人の右土地持分の譲渡は事業に当たる。すなわち,控訴人は,営利の目的をもって右ビルを建築して右ビル譲渡部分とともに右土地持分を販売し,その販売活動の対象者は不特定多数であり,販売物件は合計で八戸であり,昭和46年8月の建築着手から昭和48年1月の販売完了までの期間は約1年6月に及ぶなど,右譲渡には,事業の要件とされる継続性反復性に欠けるところはない。ちなみに,建設省計画局総務課長は,宅地建物取引業の成否に関して,マンション分譲において,たとえ一棟の建物でも不特定多数の者を対象として広告をし,各区画ごとに分譲する場合は,右取引業に該当するとしている。従って,右ビル賃貸部分及び右譲渡部分は,措置法37条1項の表12号の下欄に該当する。
本件土地持分は,準たる卸資産ではない。
所得税基本通達33-3によれば,極めて長期間(慨ね10年以上)引き続き所有していた不動産(販売の目的で取得したものを除く)の譲渡による所得は譲渡所得に該当するところ,控訴人が昭和37年に取得した本件土地持分の譲渡は,右の場合に該当し,右譲渡による所得は譲渡所得となる。
所得税基本通達33-4の(注)によれば,固定資産である土地について区画形質の変更等を行った場合でも,その変更等に係る土地の面積が小規模であるときは,当該土地はなお固定資産に該当するものとして差し支えないとしているところ,本件土地持分は,右の要件を満たしているから,右土地持分の譲渡による所得は譲渡所得となる。
所得税基本通達33-5によれば,区画形質の変更等に係る土地が極めて長期間引き続き所有されていたときは,右土地の譲渡による所得のうち,右変更等による利益に対応する部分は事業所得又は雑所得とし,その他の部分は譲渡所得として差し支えないところ,本件ビル建築工事着工の時点から本件土地持分譲渡の時点までさほどの期間経過はなく,両時点の間に右土地持分の価額にあまり変動がなかったとみられるから,右土地持分の譲渡による所得は,右変更による利益に対応する部分は含まないものとして,全部譲渡所得となる。
従って,本件土地持分の譲渡については,措置法通達37-18により,措置法37条1項の適用がある。
なお,右通達は,本件D,E各更正の後のものではあるが,措置法37条1項に対する正しい法解釈を示したものであり,これに反する従来の税務取扱が違法なものである。
以上の次第で,本件土地持分の譲渡による控訴人の収入金額は金22,836,800円であるのに対し,買換え資金である本件ビル賃貸部分の取得価額は金35,078,597円,右ビル譲渡部分の取得価額は金32,369,927円であり,前者が後二者を下回っているから,右土地持分の譲渡はなかったものとすべきである。
(三) 分離長期譲渡所得の課税の特例
本件土地持分の譲渡による所得は,分離長期譲渡所得には該当しない。
被控訴人らは,本件土地持分の譲渡に対して分離長期譲渡所得としての課税をするについて,右土地持分が固定資産であることを前提としていながら,他方,これが雑所得の基因となる準たな卸資産であるとして,措置法37条1項の適用を否定しているが,このような甚だしく矛盾した課税上の取扱は,到底許されるべきではない。
3 所得金額
(一) 不動産所得
抗弁3(一)のうち,控訴人が,本件確定申告における別表A「不動産所得」欄の不動産所得申告額金2,140,650円について,更正の請求の際,本件ビル賃貸部分の昭和47年分の減価償却費を金144,738円と改め,これを前提に右不動産所得を金2,079,412円と算出し直して申告したことは認め,その余は争う。
(二) 給与所得
抗弁3(二)は認める。
(三) 雑所得
抗弁3(三)のうち,控訴人が,本件確定申告において,別表A「雑所得」欄のとおり,雑所得を金1,824,875円と申告したことは認め,その余は争う。
(四) 総所得
抗弁3(四)は争う。
(五) 分離長期譲渡所得
抗弁3(五)は争う。
(六) 所得金額計
抗告3(六)は争う。
4 税額
抗弁4は争う。
第三証拠
原審及び当審記録中の証拠に関する目録のとおりであるから,これを引用する。
理由
第一被控訴人広島西税務署長関係
(本案前)
請求原因1,2は当事者間に争いがない。
右によれば,本件E更正及び決定は,本件D更正及び決定中,所得金額計金23,928,421円,納付すべき税額3,468,000円,過少申告加算税額118,800円を超える部分を減額するいわゆる減額再更正及び決定であることが明らかである。
ところで,申告に係る税額について更正及び賦課決定がなされた後,いわゆる減額再更正及び賦課決定がなされた場合,右再更正及び賦課決定は,それにより減少した税額に係る部分についてのみ法的効果を及ぼすものであり,それ自体は,再更正及び賦課決定の理由のいかんにかかわらず,当初の更正及び賦課決定とは別個独立の課税処分ではなく,その実質は,当初の更正及び賦課決定の変更であり,それによって,税額の一部取消という納税者に有利な効果をもたらす処分と解するのが相当である。従って,納税者は,右の再更正及び賦課決定に対してその救済を求める訴えの利益はなく,専ら減額された当初の更正及び賦課決定の取消を訴求することをもって足りるというべきである。
なお,控訴人は請求原因4(一)(6)のとおり主張し,国税通則法70条2項1号は,更正に係る国税の法定申告期限から5年経過の日までは,減額更正又は賦課決定をすることができる旨定めているところ,本件E更正及び決定が,昭和47年分所得税の法定申告期限である昭和48年3月15日から5年以上を経過した後にされたことは,当事者間に争いがない。しかし,右更正及び決定は,控訴人に有利な効果をもたらす処分であるから,その取消を求める訴えの利益はないものというべきである。
以上によれば,本訴請求のうち,本件D更正及び決定中,所得金額計金23,928,421円,納付すべき税額3,468,000円,過少申告加算税額118,800円を超える部分の取消を求め,本件E更正及び決定の取消を求める部分は,訴えの利益を欠くから,いずれも不適法として却下すべきである。
(本案)
一 確定申告
請求原因1は当事者間に争いがない。
二 更正及び決定
請求原因2は当事者間に争いがない。
三 違法事由(本件D更正及び決定)
1 所得の過大認定
(一) 経緯
抗弁1のうち,本件ビルの床面積,右ビル譲渡部分の各階の面積,控訴人が本件ビル譲渡部分を土地付分譲マンションとして本件土地持分とともに他に譲渡したこと,以上の各点を除くその余の事実は,当事者間に争いがない。
右争いのない事実に加えて,成立に争いのない乙第3号証の1,2,第5ないし第14号証,第17ないし第19号証,原審証人正木質の証言(一部),原審控訴人尋問の結果(同)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
控訴人は,昭和37年12月に本件土地及び本件旧建物を所得した後,敷地面積30坪程度の平家である右旧建物の道路側半分を有限会社中道不動産に貸事務所として賃貸の用に供し,その裏側半分を自己の居住用に使用し,右土地の使用についても,右旧建物と同様,その半分を右賃貸の用に,その余を右居住用に供していたが,右旧建物が老朽化したので,その建て替えを考え,その資金捻出のため,右土地上にビルを建築し,その一部をいわゆる土地分譲マンションとして土地共有持分権とともに売りに出すことを計画し,昭和46年になって右旧建物を取り壊して更地にした後,同年8月3日,右土地に本件ビル(床面積,1階183.75m2,うち専用部分155.70m2,共用部分28.05m2,2階及び3階各183.75m2,うち専用部分各158.86m2,共用部分各24.89m2,4階ないし7階各155.40m2,うち専用部分各120.80m2,共用部分各34.60m2,8階139.36m2,うち専用部分110.58m2,共用部分28.78m2,9階全部共用部分22.50m2)を建築する工事に着手し,総額金77,000,000円を費やして,昭和47年5月1日これを完成して所有した。
控訴人は,本件ビルの8階の専用部分のうち,半分55.29m2を自己の住居として使用し,昭和47年7月1日以降,その余の半分55.29m2を従前本件旧建物を賃貸していた有限会社中道不動産に賃貸し,1階を貸ガレージ,2階及び3階を貸事務所として,それぞれ他に賃貸した。
さらに,控訴人は,一般に広告するなどして販売活動を行い,昭和47年2月ころから同年12月までの間に,本件ビルの4階ないし7階の各階二戸合計八戸の本件共有持分権付分譲マンションのうち,4階の一戸(専用部分の面積64.52m2)を村尾寛治に,他の一戸(同56.28m2)を沼田正二に,5階の一戸(同64.52m2)を増田哲郎に,他の一戸(同56.28m2)を松島恵に,6階の一戸(同64.52m2)を國司フサコ外2名に,他の一戸(同56.28m2)を新宮原悦郎に,7階の一戸(同64.52m2)を結城辰行に,それぞれ売り渡した。右各売渡した右土地共有持分権は合計22,737分の7,198,売渡代金は合計55,400,000円(うち右ビル譲渡部分代金32,563,200円,右土地持分代金22,836,800円)であった。右各売渡に伴い,各買主のため,右土地の各持分権については持分一部移転の登記が,右ビル譲渡部分については専用部分の所有保存登記が,それぞれ経由された。
なお,本件土地の価額については,本件ビル建築工事着手直前の時点から右ビル譲渡部分の販売の時点にかけて,さしたる変動はなかった。
また,控訴人は,本件ビルの建築等に要した費用のうち,本件ビル賃貸部分の取得のために金35,078,597円を右ビル譲渡部分の取得のため金32,269,927円を,それぞれ費やし,右ビル譲渡部分の販売のため経費として金400,000円を要した。
以上のとおり認められ,原審証人正木質の証言及び原審控訴人本人尋問の結果中,右認定に反する部分は採用できず,他に右認定を左右する証拠はない。
(二) 説明
(1) 措置法35条1項
措置法55条1項は,個人がその居住の用に供している家屋とともにその敷地の用に供されている土地を譲渡した場合等に適用されるところ,前記(一)のとおり,控訴人は,その居住及び賃貸の用に供していた本件旧建物を取り壊して更地にした後,本件ビルを建築し,土地付分譲マンションとして,右ビル譲渡部分とともに本件土地持分を譲渡したから,右譲渡は,明らかに右場合等に該当しない。
従って,本件土地持分の譲渡について,措置法35条1項の適用はない。
(2) 措置法37条1項
前記(一)認定事実によれば,本件土地は,本件ビル建築工事着手時までは固定資産であったことが明らかであり,通常,その譲渡による所得,10年近くに渡る保有期間中の資産の値上がりによる価値の増加益に相当し,譲渡所得として課税されるべきものといいうる。ところで,販売を目的として建築された右ビル譲渡部分は,その戸数,販売期間,販売方法等に照らして,雑所得の基因となる準たな卸資産と認められるので,これとともに譲渡された本件土地持分は,固定資産から準たな卸資産に転化したと考える余地がある。確かに,右ビルの建築によって右土地に加工利益が生じ,その価額が従前の値上がり益に加えてさらに増加したような場合には,そのように解するのが相当である。しかし,前記(一)のとおり,右土地の価額は,右ビル建築工事着手時から右ビル譲渡部分の販売の時点にかけて,さしたる変動を見なかったものであるから,右販売時点の価額は,右建築による加工利益を含まず,保有期間中の値上がりによる増加益を含むに止まるものとみられ,右土地持分が固定資産から準たな卸資産に転化したものと認めるのは相当ではない。
従って,本件土地持分は,譲渡所得の基因となる固定資産と認められる。
次に,前記(一)認定事実によれば,本件土地は,従前,本件旧建物の敷地として,その2分の1宛を控訴人の居住用及び有限会社中道不動産に対する賃貸の用に供されていたものが,右土地全部を敷地とする本件ビル建築後は,右ビル内の控訴人居住用部分及び右会社に対する賃貸部分(8階専用部分55.29m2及び共用部分の各一部)の各敷地部分として供されるほか,その他の賃貸部分や右ビル譲渡部分の各敷地部分としても供されているものと認められる。そこで,右土地の従前の居住用及び賃貸用の2分の1宛の各部分と,建築後の右ビル内の各部分の敷地部分との対応関係を検討するに,右ビル内の控訴人居住用部分及び右会社に対する賃貸部分の各敷地部分に対しては,その利用状況の継続性からみて,従前の居住用土地部分の一部及び賃貸用土地部分の一部をそれぞれにふりあてるのが相当であるが,それ以外の右ビル賃貸部分及び右ビル譲渡部分等に対しては,右ふりあて済みの居住用部分及び賃貸用部分の各残地が同等であることに鑑み,右各残地をいずれも均等に2分の1宛それぞれにふりあてるのが相当である。
従って,本件ビル譲渡部分の敷地に当たる本件土地持分のうち2分の1については,従前控訴人が賃貸(準事業)の用に供していた固定資産であり,残余の2分の1については,居住用に供していた固定資産であるということができる。
(三) 所得金額
(1) 不動産所得 金2,034,855円
抗弁3(一)のうち,控訴人が,本件確定申告における別表A「不動産所得」欄の不動産所得申告額金2,140,650円について,更正の請求の際,本件ビル賃貸部分の昭和47年分の減価償却費を金144,738円と改め,これを前提に右不動産所得を金2,079,412円と算出し直して申告したことは,当事者間に争いがない。
しかし,本件ビル賃貸部分の昭和47年分の減価償却費は,正確には,次のとおり金189,295円である。
前記(一),(二)(2)によれば,本件土地持分の2分の1の譲渡については,措置法37条1項の事業用資産の譲渡と認められ,また,本件ビル賃貸部分は,同項の買換資産に該当することが認められるから,同法37条の3第1項3号により,右ビル賃貸部分の減価償却費の額の計算上の取得価額は,次のとおりとなる。
すなわち,本件土地持分の2分の1の譲渡による収入金額は,右土地持分代金22,836,800円の2分の1に当たる金11,418,400円であり,本件ビル賃貸部分の取得価額金35,078,597円に満たないことは明らかであるから,その差額金23,660,197円を,本件土地の取得価額金6,850,000円のうち本件土地持分割合22,737分の7,198に対応する金2,168,549円の2分の1に当たる金1,084,274円に加算して得た金2,744,471円である。
そこで,本件ビル賃貸部分の減価償却費を求めると,いわゆる定額法により,右計算上の取得価額金24,744,471円から,その残存価額(取得価額の一割)金2,474,447円を控除した金額に,その耐用年数60年に対応する償却率0.017を乗じ,これを年間月数12で除し,昭和47年中賃貸の用に供した同年7月1日から同年12月末日までの月数6を乗じて得た金189,295円となる。
従って,控訴人の昭和47年分の不動産所得金額は,前記更正の請求における申告額金2,078,412円に,その前提となった減価償却費金144,738円を加算した金額から,正確な減価償却金189,295円を控除して得た金2,034,855円となる。
(2) 給与所得 金1,956,500円
抗弁3(二)は当事者間に争いがない。
(3) 雑所得 金1,718,148円
抗弁3(三)のうち,控訴人が,本件確定申告において,別表A「雑所得」欄のとおり,雑所得を金1,824,875円と申告したことは,当事者間に争いがない。
前記(二)(2)のとおり,本件ビル譲渡部分の販売による所得は雑所得といえるから,右ビル譲渡部分代金32,563,200円の収入から,右取得費用32,269,927円及び右販売に要した費用金400,000円の合計金32,669,927円を必要経費として控除すると,雑所得損失は金106,727円となる。
従って,雑所得金額は右申告額から右損失金額を控除した金1,718,148円となる。
(4) 総所得 金5,709,503円
前記(1),(2),(3)の各所得金額の合計
(5) 分離長期譲渡所得 金9,334,126円
前記(二)(2)のとおり,本件土地持分のうち2分の1については,従前控訴人が居住の用に供していた固定資産であるから,措置法31条により,右土地持分の譲渡代金22,806,800円の2分の1に当たる金11,418,400円の収入から,本件土地の取得価額金6,850,000円のうち右土地持分割合22,737分の7,198に対応する金2,168,549円の2分の1に当たる金1,084,274円及び特別控除額金1,000,000円の合計2,084,274円を控除すると,分離長期譲渡所得は金9,334,126円となる。
(6) 所得金額計 金15,043,629円
前記(4)及び(5)の合計金額
(四) 税額
前記一,二,三,1(三)によれば,別表G欄のとおり,総所得金5,709,503円に対する税額は,右総所得から所得控除として金291,900円を差し引いた金5,417,603円の1,000円未満を切り捨てた金5,417,000円に,所定の税率を乗じて算出した金1,254,460円の100円未満を切り捨てた金1,254,400円となり,分離長期譲渡所得金9,334,126円に対する税額は,同額から1,000円未満を切り捨てた金9,334,000円に所定の税率100分の15を乗じて算出した金1,400,100円となる。
また,納付すべき税額は,右算出税額合計金2,654,500円から,源泉徴収税額金218,800円及び予定納税額二期分金258,000円を控除した金2,409,900円となる。
さらに,同額に比較すると,本件確定申告における申告納税額から予定納税額を控除した納税すべき税額金1,090,800円(別表A「納付すべき税額」欄)は過少であるところ,過少申告加算税額は,右差額金1,319,100円の1,000未満を切り捨てた金1,319,000円に所定の税率100分の5を乗じて算出した金65,950円の100円未満を切り捨てた金65,900円となる。
(五) 結論
以上によれば,本件D更正及び決定(本件E更正及び決定による減額後のもの)は,前記(三)の総所得金5,709,503円と分離長期譲渡所得金9,334,126円を合計した所得金額計金15,043,629円を超える部分,前記(四)の納付すべき税額金2,409,900円を超える部分,過少申告加算税金65,900円を超える部分において理由がない。
2 前更正との矛盾
控訴人は請求原因4(一)(2)のとおり主張する。しかし,国税通則法26条により,税務署長は,更正又は決定をした後,その後課税標準等又は税額等が過大又は過少であることを知ったときは,これを更に更正又は決定するものであり,その際の法条の適用の異動をもって,右再更正又は決定が違法になるものではないから,右主張はそれ自体失当である。
3 一事不再理及び不利益変更禁止の各違反
控訴人は請求原因4(一)(3)のとおり主張する。しかし,税務署長は,前項のとおり再更正又は決定をなし得るところ,当初の更正又は決定に対する異議棄却決定後であることも,新たな事実関係が生じていないことも,なんらこれを妨げる根拠とはならない。また,国税通則83条3項は,異議審理庁の決定に対する制限規定であり,税務署長が行う再更正又は決定に適用されるものではない。従って,右主張は失当である。
4 更正権の濫用及び信義則違反
控訴人は請求原因4(一)(4)のとおり主張する。原審証人正木質の証言及び弁論の全趣旨によれば,本件D更正及び決定は,控訴人が本件B更正及び決定の取消を求めて別訴を提起して係争中になされたことが認められるが,本件D更正及び決定が,もっぱら右訴訟における被控訴人広島西税務署長の敗訴を避けるために意図的にされたことを認めるに足りる証拠はないから,右主張は理由がない。
5 内容の矛盾
控訴人は請求原因4(一)(5)のとおり主張し,本件D更正及び決定が,分離長期譲渡所得金額の算定には措置法37条1項の適用を否定し,不動産所得金額の算定の前提となる減価償却費の算出には,同条項の適用を前提としていたことは,当事者間に争いがない。しかし,弁論の全趣旨によれば,右矛盾点は,減額再更正及び決定である本件E更正及び決定によって変更解消されたことが認められ,既に本件D更正及び決定に右矛盾点はないものといえるから,右主張は理由がない。
6 所轄外
控訴人は請求原因4(一)(7)のとおり主張する。しかし,原審証人正木質の証言及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人広島西税務署長は,本件D更正及び決定当時,控訴人の住所地を所轄していたことが認められるから,右主張は理由がない。
第二被控訴人国税不服審判所長関係
控訴人は請求原因4(二)のとおり主張する。しかし,行政事件訴訟法により,原処分の違法を理由として裁決の取消を求める訴えを提起することはできないから,右主張のうち,本件B更正及び決定,本件D更正及び決定並びに本件E更正及び決定の違法を理由とする部分は,それ自体失当である。また,本件D更正及び決定は,本件B更正及び決定について増額再更正及び決定をしたものであるから,後者は前者に吸収されて一体となり,併存しないものと解され,従って,右各更正及び決定を原処分とする本件一,二各裁決も同様矛盾対立する関係にはないから,右主張のうち,右一,二両裁決の矛盾併存を理由に双方又はいずれかの違法をいう部分は,既に前提自体失当であり,他に,本件一,二各裁決に違法事由を認めるに足りる証拠はない。
第三結論
以上によれば,控訴人の被控訴人広島西税務署長に対する請求のうち,本件D更正及び決定中,所得金額計金23,928,421円,納付すべき税額金3,468,000円,過少申告加算税金118,800円を超える部分並びに本件E更正及び決定の取消を求める部分は訴えの利益がなく不適法であり,本件D更正及び決定(但し,本件E更正及び決定による減額後のもの)中,所得金額計金25,043,629円,納付すべき税額金2,409,900円,過少申告加算税金65,900円を超える部分の取消を求める部分は理由があり,その余の部分は理由がなく,被控訴人国税不服審判所長に対する請求は理由がないから,原判決中,被控訴人広島西税務署長に関する部分は一部失当であり,被控訴人国税不服審判所長に関する部分は正当である。
よって,本件控訴中,被控訴人国税不服審判所長に関する部分を棄却し,原判決中,被控訴人広島西税務署長に関する部分を変更し,訴訟費用の負担について,民事訴訟法96条,95条,92条,89条を適用して,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中原恒雄 裁判官 弘重一明 裁判官 矢延正平)
<以下省略>